「う、うそだよ。ディー、うるさい。耳がこわれちゃう」
ちょっとからかってみただけなのに、ガックンガックン肩を揺らされる。
完全に目を回しながら、ルイーズはなんとか壊れたディオンを宥めにかかった。
「だいじょぶだから。ほら、ディー。ルゥ、元気だから……!」
「ひ、姫さま……お腹は、痛くなっておりませんか? お身体に、異常は……っ?」
猛毒を含んでいたはずの水を舐めてもケロリとしているのが信じられないのか、ディオンはぺたぺたとルイーズの柔い頬を両側から挟みながら問う。
(まったく。ディーったら)
涙が浮かぶディオンの目元に手を伸ばし、ルイーズは小さな指先で雫を拭った。
「ごめんね。ルゥ、なんともないよ」
「本当の、本当ですか?」
「うん。毒なくなってるって言ったの、ディーだよね?」
「それはそうですが、自分の毒味もなしに……っ」
「だってディー、ちゃんとわかってたでしょ。ディーがそう言ったら、ルゥはこうするって。だからディーは、毒がないって確信してなきゃ、言わない」
ルイーズの落ち着いた返しに、ディオンは半眼になって天を仰ぐ。
「姫さまに……自分という生物を理解していただいているのは、この上なく嬉しいのに……まさかこんな複雑な思いに駆られる日がくるなんて……」
「ディー?」
「姫さまの賢さには、本当にドキッとさせられますよ。どんどん大人になっていかれて……その成長が、ディーは嬉しゅうございます」
噛みしめるように告げながら、ディオンは改めてルイーズの前に片膝をついた。
幼い頃から変わらぬ美貌にどこか寂しそうな微笑が浮かぶ。



