突如、横から現れた魔物がエヴラールの左半身に体当たりしたのである。

 その衝撃にはさすがに耐えきれなかったのか、体勢を崩したエヴラールは一直線に降下し、湖へ落ちた。魔物はそのままべつの水柱へと移り、また姿を消す。

 しかし、あの魔物が自らの懐である水中で狙うものなど考えるまでもない。

「っ……くそ!」

(あいつは水中だと方向がわからない──!)

 逡巡したのは、ほんの刹那の間だけだった。

 グウェナエルは空中を蹴り、急降下。そのまま勢いよく湖へと飛び込む。

 竜巻のように舞い上がる水柱のせいで、激しい水流が身体を打つ。だが、どうにか堪えながら気配を辿り、水泡に阻まれる視界のなかにエヴラールを見つけ出した。

(いた)

 魔力で全身を覆いながらエヴラールのもとへ向かい、すでに意識を失っている彼の腕を掴んで力任せに引き寄せる。

 が、その時点でグウェナエルの視界はすでに霞んでいた。加えて全身がチリチリと焦げるように痛む。エヴラールも然りだが、肌が紫色に侵食され始めていた。

(……いかん、毒が回ったか)

 あの魔物が吐き出し汚染した毒素のせいだろう。

 焼かれるような痛みが麻痺してくると、今度は急速に全身が痺れ始めた。

 はやく水上へ。そうは思っても、絶えず襲いくる激しい水流から身を守るのが精いっぱいで、痺れた身体は上手く動かず水上へ這い上がることができない。

(解せんな。〝王〟とつく肩書きを持ちながら、こんな相手に不覚を取るとは)