わずかでも気配が追えればいいのだが、アレは水中と同化すると恐ろしいほど動きが追えなくなる。奴が持つ魔力でさえも探知できなくなるのだから厄介だった。

「エヴ、無事か!」

「はい、陛下! ここに!」

 エヴラールも自身の剣と闇魔法で応戦しているが、やはり動きがやや鈍い。

 水柱に巻き込まれないようにするのが精いっぱいなのだろう。頬や手の甲など、避けきれず飛沫のかかった部分が湖の毒にやられてしまっていた。

(よりにもよって、夜だからな)

 ただでさえ暗い魔界は、夜を迎えるといっそうその深淵を増すのだ。

 月明かりなどほぼ届かない。光のわずかな反射や気配のみで動きを読み定めているエヴラールにとっては、最悪な時間帯とも言える。

(せめて近くに──)

 グウェナエルは水柱を縫いながらエヴラールのもとへ向かう。

 だが突如、グウェナエルを囲むように幾多もの水柱が上がった。前方にも後方にも道を阻まれ、グウェナエルは苛立ちを募らせながら剣を一閃する。

 同時に水壁の向こう側から剣戟を食らわせたエヴラールの力添えもあり、水柱が一本見事に瓦解した。道ができる。その向こうにエヴラールの姿が見えた。

 だが、その姿を認めたことで、ほんの一瞬、動きが遅れたのが悪かったのか。

「陛下っ!!」

 ハッと見えていない両眼を見開いたエヴラールは、珍しく焦りを浮かべながらグウェナエルに手を伸ばした。ガシッと腕を強く捕まれ、勢いよく引かれる。

「な……っ」

 その拍子にぐるんと入れ替わったエヴラールとの位置。

 グウェナエルが体勢を建て直しながら振り返った瞬間、最悪の事態が起こった。

「ぐっ──!」

「エヴッ!」