呆然と呟いたのはベアトリスだ。いきなり抱えられて混乱していたルイーズは、ふらふらになりながらもなんとか湖の方を見る。
そこには──〝鯨〟のようなものが浮かんでいた。
否、全身を纏う鱗や尾鰭の形は〝魚〟だ。しかしながらその大きさは確実に〝鯨〟レベルであり、体の色は見るからに禍々しい濃紫だった。
(うん、ザーベスで見たなあ……あの色……)
「魔物、ですね。……十中八九、あれが例の水不足の元凶でまちがいないでしょう。あんな巨大な魔物は、自分も初めて目にしましたが」
「魔物、だと? わたしがかつて人界で相手にしていたものは、あれほど凶悪ではなかったぞ。少なくとも、鍛えられた人間ならばひとりで倒せる程度の相手だった。アレは、どう見たって大きさからして無理だろう……!」
「魔界の魔物は肥大しやすいのですよ。魔界が持つ魔力を吸収しているから、と言われていますが、真実はわかりかねます。なにはともあれ、最悪ですね」
ルイーズをしっかりと抱え直しながら、ディオンが立ち上がる。
「魔物は自我と思考能力がない分、本能で動きます。そしてアレは自分たちが〝テリトリー〟に侵入した異物だと思ったがゆえに、こうして現れた。そうなると、完全に目をつけられましたね。ええ、びっくりするほど最悪です」
「っ、とにかく最悪なことはわかったが! しかし、しょせんは魔物だろう? ここには大魔王と魔王がいるんだぞ。たとえ人間のわたしが役に立てなくても、どうにかなるのでは──」



