手足をぶらんと投げ出しながら、ルイーズは視線だけ動かして過保護従者を見る。
なにするの、と不満も込めるが、ディオンは気にした様子もない。
「姫さま、これは離れた方がよろしいのでは?」
「んー」
どうだろうか。
たぶん大丈夫、の意を込めて首を傾げると、ディオンは眉間に皺を寄せた。
「たぶんは信用なりませんよ。失礼します!」
あっと思ったときには、時すでに遅し。
ルイーズの身体を抱えたまま、ディオンは鋭く地面を蹴って後方に飛んでいた。
びゅおおっと逆風に巻き込まれながらも、一瞬の間にザーベスが遠のく。
着地したのは、軽く十メートルほど離れた場所だった。
「ディー……」
さすがに流しきれず、ルイーズは口元を覆う従者の手を外しながら嘆息する。
「すみません。しかし、姫さまのお身体になにかあってからでは遅いので」
「うん……うううん……」
いつでもどこでも主第一。
いまさら彼の〝ルイーズ至上主義〟を瓦解させることなど不可能に近いと悟ってはいるが、せめてTPOはわきまえてほしい、とルイーズは思う。
(ちょっとズレちゃったし……んもう。過保護なうえに心配性なんだから)
せっかく隙間なく覆えていたのに、反動で綿雲がやや外れてしまった。
途中に生えるザーベスで視界を遮られないよう少し移動して、ルイーズはなんとか軌道の修正を試みる。
(ん、へーきかな。ここからでもできそう)
毒素と思われる紫色の煙は、まだもくもくと立ちのぼっていた。
だが、それは上がるにつれて薄くなり、最終的には消えている。おそらくだが、立ちのぼった毒素も遅れながら聖光力が浄化しているのだろう。



