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「ぐ、グウェナエルさま……っ」
ルイーズの部屋を出ると、真横から幼い声が響いた。らしくなくぎょっとしたグウェナエルは、弾かれるように声の出所を見下ろす。
そこにいたのは、頬を涙で濡らし目を真っ赤にしたリュカだった。
(……俺としたことが、ルイーズに気を取られすぎて気配にすら気づかなかった)
「リュカ、部屋に戻れと言っただろうが」
「で、でも、ルゥが心配で……っ! ぼくのせいだっ……ぼくが、ぼくのわがままにずっと付き合わせてたから……っ」
「落ち着け。ほら、ゆっくり呼吸しろ」
泣きすぎて呼吸すらおかしくなりかけていた。
内心面食らいながらも、グウェナエルは腰を屈めてリュカを抱えあげた。
ぽんぽんと背中を撫でてやれば、まさか抱えられるとは思っていなかったのか、リュカはおかしいくらいに硬直した。
「ぐ、グウェナエル、さま……ぼくは、もう子どもじゃ……っ! だっこは、さすがに、あの、はずかしいです……」
「なにを言ってる。ルイーズとひとつしか変わらんだろうが」
「でも、ぼくは男の子だしっ」
「性別なんて些末なことだ。俺にとってはどちらも幼子にすぎん。──ほら、いいからそのまま掴まっておけ。部屋まで連れて行ってやろう」
リュカの身体は、服越しでもわかるほどには冷たかった。
この様子だと、ずっと部屋の外で待っていたのだろう。途中でエヴラールや医師が出ていったはずだが、それでもなお、頑として動かなかったのか。
(まったく、水不足の件もやめろと言われたのにやめないし……こう見えて頑固だな、こいつは。まあ、そのくらいの方が根性があって俺は好きだが)
しかし、父であるエヴラールからしてみればたまったものではないのだろう。同じ親として頭を抱える気持ちはよくわかる。



