まあ、残念なことにすべてを憶えているわけではなく、記憶は欠けたピースのように断片的で、基本的には知識に関することばかりなのだけれど。
(前のルゥの名前も、家族も、生き方も、自分がどんなふうに死んだのかもわかんないけど……。でも、少なくとも前世ではそうだったんだから(ゲームだけど)、できないって決めつけるにはやっぱりはやいよね)
前世と今世は世界が異なる。つまり、常識も概念もちがう。けれども、おかげでルイーズのなかには正解の固定概念が存在しないし、柔軟性も身についていた。
「よし」
「ううっ、やっぱりやるのですか」
「ん、やるよ」
当たり前を当たり前として捉えないことこそ、ルイーズの強み。
何事も実践してみてから判断する。それがルイーズのモットーでもある。
「……あ、でも気をつけてね。毒が飛んできたら、すぐ逃げて」
「いいえ、逃げませんよ! たとえこの身が焼け焦げようが! ドロドロに溶けだそうが! 大切な姫さまのためならば! 不肖ディオン、ただの物質になり果てたとしても、姫さまをお守りする所存でございますれば!!」
「あ、うん。ありがと、ディー」
従者の愛の重さに苦笑しつつ、ルイーズは気合を入れなおす。
ザーベスに向かって両手を突き出しながら、祈りを込めた。
「……茎のお水と、お花の蜜が飲めるようになりますように」
聖光力は、身体の内側に溜まる熱を外に向かって送り出すイメージで用いる。
外に出たあとは、熱の手網を握り、対象を覆うように意識するだけだ。
(集中、集中……)
ふわりと白銀の髪が舞い、額の〝聖刻印〟が淡く白い光を帯びて浮かび上がる。



