ずっと考え込んでいたのは、領地の水不足についてのことだったようだ。
てっきりエヴラール関係のことだと思っていたルイーズは、内心驚きながらも感心した。まだ幼いのに、どうやらもう民を守る王子としての自覚があるらしい。
「──リュカ、やめなさい」
そのとき、ふいに低い声が空間を割った。
勢いよく声の方を振り向いたリュカは、静かに階段を降りてくるエヴラールの姿を認めると「父上……」と喉を震わせる。そのまま、さっと俯いてしまった。
「この件はおまえにはまだ早い。そんなことより、せっかくルイーズさまと出かけたのになんだその態度は。おまえはどうしてそう──」
「魔王さま、待って」
なんだか嫌な予感がして、ルイーズはとっさにエヴラールの言葉を遮った。
「ルゥは大丈夫だよ。ちゃんと楽しかったし、リュカだって……あっ」
「っ、ごめん、なさい……!」
突然、リュカが擦り切れるような声で謝ったかと思うと駆け出した。
踵を返した拍子に頭巾が外れ、黄金の髪が舞い上がる。
涙の粒が数滴弾かれて地面に落ちたのを視界に入れた瞬間、意表を衝かれていたルイーズは我に返った。
「リュカ!」
勢い余って転びそうになりながら、リュカの走り去った方向へ地面を蹴る。すぐに後ろから従者たちの焦った声が聞こえてくるが、振り向かないままリュカを追った。
五歳と六歳。女の子と男の子。この年頃はたった一歳の差が大きい。男女差による身体の大きさも相まって、追いかけっこでは敵わない。
とりわけ小柄なルイーズとリュカでは圧倒的な差があった。
ぐんぐん引き離されるなか、ルイーズはその背に向かって声を張り上げる。



