「いや……飲み物が味の濃そうな果実水しか売っていなくてな。姫さま方のものは甘いから、あまり邪魔をしないものがよかったのだが」
「そういえば、ここに来るまでも飲料店自体が少なかったですね」
たしかに言われてみればそうだ。
食事系の屋台はずらりと並んでいるが、飲料店はほぼない。酒類を販売している店に、申し訳程度でノンアルコールの果実水が売られているくらいである。
「ふつうのお水も売ってないの?」
「むしろふつうの水が売ってねえんだよ、嬢ちゃん」
どうやらこちらの会話を聞いていたらしい。さきほどクレプアンを売ってくれた鹿角の店主が、わざわざ屋台を出てきながら怪訝そうな顔をする。
「つかなんだ、知らねえってことは兄ちゃんたち外から来たのか? そのカッコからして、エヴラールさまのとこのもんかと思ったが」
「ええ、まあ……しばらく領地を離れていたもので。それより水がないとは?」
あまり追及されても困るからだろう。
ディオンは曖昧にごまかしながら、さっと話の筋を入れ替えて誘導する。
「そのまんまの意味さ。水が不足してんだよ。──ほら、エヴラール領地の飲料水はすべて〝ジルダ湖〟から続く〝ジルダ川〟で賄われてんだろ?」
「そうですね。このあたりだとそうなりますか」
「ああ。それが数ヶ月前、急に毒素まみれになっちまってよ」
「……毒素、ですか?」
ルイーズは、その瞬間びしりと身を固くして動きを止めた。
(え、毒って言った?)
──毒。それはつい最近、心底困らされたばかりの代物である。ディオンも同じ気持ちなのか、ひどく苦々しい顔をしてルイーズと顔を見合わせた。



