「うん、シードル花蜜をたっぷり練りこんだ生地を焼いたものだよ。なかにもたくさん花蜜を詰めてあって、すっごく甘いんだけど美味しいんだ」
「それにする!!」
大好物のシードル花蜜を心ゆくまで堪能できるなんて、このうえなく素晴らしい。
きらきらと目を輝かせて飛びつくと、リュカは「じゃあぼくも」と笑った。
「ディー、お金ちょうだい」
「はい、姫さま。どうぞ」
ディオンに銀の硬貨を一枚手渡されて、ルイーズは首を傾げた。
「これで足りる……? 向こうだと、いくらくらい?」
「クレプアンはひとつ二百五十コレなので、それ一枚でちょうどふたりぶんです。自分とベアトリスは、ほかの屋台でべつのものを買いますね」
城を出る前にグウェナエルから預かった、お小遣いの魔界金。
人界と魔界では、金銭そのものが異なる。ルイーズの前世の記憶はここでもいっさい通用しないが、感覚的にはだいたい〝日本円〟とそう変わらないだろうか。
二百五十コレは二百五十円。ふたつで五百コレ──五百円。
屋台金額としては、むしろ安い方かもしれない。
(銀のコインは、五百円玉……。よし、覚えた)
前世との齟齬をはっきりと理解してついていくのは難しいが、そのぶん飲み込みは早くなる。ルイーズの賢さは、基本的に応用術でしかないのだ。
「じゃあ、買ってくるね」
「おひとりで買えますか? 初めてですし、自分も一緒に……」
「だいじょぶ。リュカもいるし、お買い物の仕方は前に本で読んだことあるよ」
(……そういえばルゥ、お買い物したことなかった)
幽谷育ちの野生児は、基本的に食事の材料は採取してくるもの。



