見つかれば決して生かしてはもらえないだろう。そのような極限状態で、五年も人の目から逃れて生き抜いていたことが、エヴラールはそもそも信じられなかった。
そこまで考えたところでふと思い至り、背筋にひやりとしたものが流れる。
「……ミラベルさまは」
「俺が封印を解かれる前に、病でな」
ガツン、と後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
表情には出さないが、エヴラールは内心動揺しながら葡萄酒を煽る。
(あれほど、愛しておられた方を……)
支配していた魔界を捨てる。そんな決断すら迷いなく下してしまうほど、ミラベルはグウェナエルが守りたかった存在だ。
だというのに、まさか再会できぬまま今生の別れになってしまっただなんて。
「同じように喪った者として、おまえならわかるだろう」
「…………」
ほかでもないエヴラールも、息子のリュカが生まれると同時に愛する妻を失った身である。残された者として、己の子の親として抱く気持ちは理解できる。
(……それでも、私とあなたはちがいますよ。陛下、あなたはいつも多くよりたったひとりの愛する者を選ぶ。あなたこそ多くを選ばなければならないのに)
答えず顔を逸らしたエヴラールに、グウェナエルはふっと微笑を浮かべた。
「なあ、エヴ。──上に立つ気分はどうだ」
「っ……」
「いいものか?」
ぎり、とエヴラールは奥歯を噛み締めた。葡萄酒の入った杯を投げ捨ててしまいたい衝動に駆られながら、必死に激情を押し殺す。
「最悪、ですよ。私には向いていません。知れたことでしょう」



