「だから、昨日のことは俺が悪かったって思ってるからさ、別れるのは無しにしようよ。旅行もあるしさ、仲直りしよ?」
翔馬の言葉に耳を疑う。

「葉月の意見も聞くし、あんな風にケンカにならなければ、もう叩いたりもしないよ。展覧会とかも付き合うからさ。」
「………」
「葉月?」

「無理だよ…」

葉月の鼓動は緊張で早くなっている。

「え…」
「昨日のことだけじゃなくて…翔馬くんだって“思ってたのと違う”って何回も思ったでしょ?今日だって、メガネで嫌だなって思わなかった?」
「それは…」

「翔馬くんには理想の歳下の彼女像があるけど、私はそれにはなれないから…“まだ高校生なんだから”が、“まだ学生なんだから”になって、その後も“歳下なんだから”で、ずっと押さえつけられちゃうんじゃないかなって想像しちゃった。」

「そんなのただの想像だろ?わかんないじゃん。」

「…それに、翔馬くんはちょっと叩いただけって思ってるかもしれないけど…私は怖かったよ…」
「………」
「多分一緒にいたらずっと思い出す。だから無理なの。」
「………」
「家庭教師の翔馬先生と生徒の葉月に戻ろ…?」
「………わかった。ごめん。」

翔馬が会計を済ませて先にカフェを出ることになった。

(“ごめん”て言ってくれて良かった…ギリギリ嫌いにならずに済んだ…)

まだ少し早い鼓動を感じながら葉月はアイスティーを口にした。