「やりたいバイトを選んだら誰かに嫌な顔されちゃうし、じゃあ自分がやりたいことじゃないバイトをやらなきゃいけないのかな〜って。別に今そこまでしてバイトしなくてもいいかなって思っちゃったの。」
「荻田の買いたいものって何?」
「パソコン…」
「それってデザインで使いたいやつなんじゃないの?誰かって彼氏だろ?」
「………」
「優先順位が違うと思うけど。」

「……正論」

視線は日誌に向けたまま、葉月はつぶやいた。
「みんながみんな、羽生くんみたいに自分の意思だけで動けるわけじゃないよ…正直、羽生くんはポリシーみたいなものがあってかっこいい。」

「…荻田は動けると思うけど。」

「………」
葉月の手が止まる。
「なんでそんなに周りを気にしてるのか知らないけど、好きなこともやりたいこともはっきりしてるだろ?本当は自分でもわかってるんじゃないの?どうするべきか。」
「でも……」
葉月は言葉に詰まってしまった。

———パタン…

「日誌書き終わったし、帰るか。」

羽生が素顔を見せて以来、以前よりも会話が増えた。

バイトのことに加えて旅行のことも葉月の溜息の原因だったが、それは羽生には相談できなかった。

——— 本当は自分でもわかってるんじゃないの?どうするべきか

羽生の言葉が(むね)にトゲのように刺さったままだった。