「荻田さん、明日日直よろしくー。羽生くんにも言っといて。」

ある日の放課後、前の席のクラスメイトが葉月に言った。
このクラスでは席順で隣同士の2名が日直を担当する。葉月は羽生とペアだ。

(言っといてって言われても…)

葉月は主の気配の無くなった隣の席に目をやった。
羽生はいつも通り、HRが終わると同時に教室を後にしていた。
(…日直とか気づいてないだろうなぁ。明日も早く帰っちゃいそうだし…)


翌朝 職員室
「日誌なら相方がとっくに持ってったぞ。」
いつもより30分早く登校し、日直の仕事である日誌を取りに来た葉月は担任の言葉に驚いていた。
そして足早に教室に向かった。

「おはよう、羽生くん…」
「おはよう。」

教室では羽生が一人、空気を入れ替えるために窓を開けていた。葉月も急いで残りの一箇所を開けた。
「ごめんね、遅くなっちゃって…」
「いや、俺が早く来すぎただけだから。」
羽生は気に留めていない、いつもの淡々とした口調で言った。
「知ってたんだね、日直…」
「なにそれ、当たり前じゃん。俺のことどんなヤツだと思ってんだよ。」
朝の光とカーテンのゆらめきの中で、羽生の不敵さを含んだ笑みもいつもより優しく見える。

「…どんなって…全然わかんない謎の人…だよ。」

葉月のボヤくような答えに、羽生はまたフッと笑った。