「思い出さない、忘れる。忘れる……」


念仏のように唱えていた、その時。

どこから現れたか分からない赤い糸が、私の前にふわりと姿を見せる。踊るように何週も私の前で回り、そして最後に――

ハートの形を作って見せた。


「まるで”運命の人が見つかって良かったね”、て。そう言ってるみたい」


ふ、と笑って言うと、赤い糸は嬉しそうにヒラヒラ揺れる。

あれだけ優柔不断だったくせに、なにが「運命の人」よ。都合いいんだから、もう――

なんて思いながら、ハートの形をした赤い糸を見る。徐々に移動していく糸が向かった先。それは、


「凌久くんの左手の薬指……」


キュウッと固く、そして強く結ばれた赤い糸。その糸が、


もう離れないよ
どこにも行かないよ
だから信じて
運命の人は、この人で間違いないからね


って。私に、そう語り掛けている気がした。


「本当に私と凌久くんが……」


赤い糸で繋がっている、私と凌久くん。

再び糸はほどけるのか、それとも、もう二度とほどけないのか――


「……っ」


それぞれの指に赤い糸がガッチリ結ばれているのを最後に見て。

私は凌久くんの部屋の扉を、静かに閉めた。