そこからは早かった。

 なんと両親もアベルと婚約破棄することに賛成してくれたのだ。こうして家族全員で動き出すことになった。

 まずはアベルの浮気の証拠を集める。

 乱れた彼らの最低な証拠は面白いほど集まった。
 さらに驚くべきことに、聖女と言われているヒロインの力も偽物だという疑惑まで持たれていた。

 そして案の定、卒業パーティでセリーヌを陥れようとしている計画も明らかになった。
 その為、次はアリバイ作りに勤しんだ。

 学園にいるときは常に護衛をつけ、なるべく先生や友人と共に過ごす。
 授業の単位は既に取得済みなので、学園に行くのは必要最低限にとどめ、王宮で妃教育や公務に励み、言いがかりがつけられないようにした。

 それでもヒロインはセリーヌに嫌がらせをされたとアベルに訴えているようで、アベルはそれを鵜呑みにしているようだった。

「アベル殿下は元々素行が悪い方だとは思っていたが、こうも愚かだと呆れて物が言えない」
「わたくしとの婚約よりも、彼女の言葉が全てなのでしょう」
「よく考えれば姉上が嫌がらせなんてするような方ではないと分かるはず! 奴がそのうち国王になるなんて世も末だ!」

 テオドール殿下が貸してくれた王宮の『影』からの報告を読んで、フィルマンが憤る。
 セリーヌの為に用意されている王太子妃の部屋をオデットに自由に出入りさせているだけではなく、宿泊することも珍しくないそうだ。なんという侮辱だろう。第一王子がこなすべき公務も肩代わりして、必死に彼を支えてきた。そんなセリーヌに対する敬意も配慮もない。
 
 こうなればもう未練は全くない。浮気者はごめんだ。浮気、ダメ、ゼッタイ!

 婚約破棄に向けて根回しを進めていく。確かな浮気の証拠とセリーヌに冤罪を擦りつける計画の証拠を持って、アベルとの婚約破棄を王妃様に打診すると、泣いて謝られてしまった。「セリーヌの気持ちは分かったわ」と慈悲深い王妃様は認めてくださり、国王陛下を説得し、必ず婚約破棄を実現してくださると約束してくれた。

 そうして迎えた卒業パーティの日。

「セリーヌ・ルヴィエ! 君との婚約を破棄することを、ここに宣言する!」

 それはセリーヌにとって想定済みの台詞。計画通りに断罪を覆し、無事、婚約破棄を果たしたのだった。

 そして、婚約もしていないのに淫らな行為をしていたこと、セリーヌに罪を着せようとしていたことが明らかになった今、アベルとオデットの評判はこれまで以上にガタ落ちした。

 事前に知らせていたはずの国王や王妃が何故それを止めなかったのかは分からない。
 だが、セリーヌは悪役令嬢として断罪されるシナリオを、見事打ち破ったのだった。