セリーヌが目を覚ますと、見覚えのないベッドの上にいた。
 広く大きなベッドは、質の良いシーツを纏い、その真っ白なカバーには、美しい銀糸の刺繍が張り巡らされている。

 部屋の中は少し簡素で、最低限のものが揃っている程度だ。客室にしては少し寂しい。

「お目覚めですか? セリーヌ様」

 ちょうど王宮の制服を着た侍女が入室してきた。彼女は輿入れ後にセリーヌ付きになる侍女のサラ。ではここは王宮なのだろうか。

「サラ、ここは……?」
「こちらは王太子殿下とセリーヌ様の寝室です。お二人の婚儀が終わりましたら使用する予定のお部屋でしたので、色々と整えている最中なのです……。不足がございましたら申し訳ありません」

 深々と頭を下げるサラに気にしなくて良いと告げてから再び室内を観察する。なるほど左右に続き部屋があり、どちらかがテオドールの私室に繋がっているのだろう。少し簡素なのは、セリーヌが輿入れしてから趣味に合わせて色々と整える算段だったのかもしれない。 

 そこでやっと自分が何故倒れたのか思い出した。

「っ! テオドール様は!? フィルは!? 無事なのでしょうか!?」
「ええ。ご無事ですわ」

 サラの言葉に安堵する。サラによると、セリーヌ達が乗っていた馬車を襲ったのは、第一王子派の貴族が雇った荒くれ者だそうだ。
 金で雇われただけなのですぐに口を割り、その貴族と第一王子を捕らえて拘束したそうだ。なんとその貴族というのは、戴冠式の時にセリーヌに嫌味を言ってきた、あのドラノエ伯爵だった。

「それにしても、何故、わたくしを襲ったのかしら……?」
「それは私の弱味がセリーヌだからです」

 いつのまにかテオドールか寝室にやってきていた。サラは一礼してさっと退出する。

「テオ様! お怪我は? 身体は大丈夫ですか!? お辛いところは?」
「そっくりそのまま私が貴女に聞きたいことばかりだ。私は平気です。セリーヌは?」

 苦笑しながら答え、テオドールはセリーヌが横になっているベッドに腰掛けた。そしてセリーヌの髪をそっと撫でる。

「私も、大丈夫です」
「……良かった。貴女をもし失ったら、私は後を追って自害するところでした。もうこんな無茶はしないでくださいね」
「ええ?」

 物騒な発言に驚きながら、「襲われるなんて思ってもみなくて……」と言い訳をする。
するとテオドールは目を見開いた。

「え? しかしフィルから、貴女が『気づいていたようだ』と聞いたのですが……。自ら囮になるつもりだったのではなかったのですか!?」
「囮? いいえ。わたくしはただ、テオドール様にお会いしたくて……」

 フィルが「気づいていたのか」と聞いてきたのは、オデットとの仲ではなかった? セリーヌが混乱していると、テオドールが一つ一つ紐解いてくれた。