「私はっ、娘一人守れん愚か者だっ!」

 国王夫妻との面会を終え、馬車に乗り帰宅する車中は、前世でいう通夜のように暗い空間と化していた。

 浮気者の第一王子との婚約を破棄できると思ったら、今度は病弱な第二王子に嫁ぐよう言われてしまったのだ。
 両親は可愛い娘に結局苦労をさせてしまう運命を悔やんでいた。ルヴィエ公爵は国王陛下の提案をセリーヌが受けてしまったことに憤り、ついに泣き出してしまった。

「ごめんなさいね。セリーヌ。わたくし達があの場で即座に断るべきだったわ」
「いいえお母様。良いのです。テオドール殿下はお優しい方。きっと幸せになってみせますわ」
「けれど、殿下は……!」

 決してその先は口にできないが、両親は病弱な第二王子に嫁ぐことで、セリーヌが近い未来、夫に先立たれてしまうのではないかと危惧しているのだ。

 第二王子殿下は病弱な方で、滅多に公務に現れない。

 この国の貴族ならば誰もが知ることだ。ゲームのシナリオでもそうだった。第二王子ルートに進まなければ、臥せっている描写しか出てこなかった。今日も彼の体調が優れず、顔合わせさえ出来なかったのだ。

 だが、セリーヌには勝算がある。

「大丈夫ですわ。お母様。わたくしを信じてくださいませ。わたくしのことを案じてくださって、ありがとう」
「あぁ! セリーヌ!」

 父と母をなんとか宥めながら、セリーヌは第二王子ルートのことを思い出していた。

 第二王子テオドールは、幼い頃から病弱だったこともあり、婚約者はいない。ゲームの中でもヒロインに一途で、可愛らしいキャラだった。彼は少しヤンデレ気質で、怖いくらいに一途な性格だった気がするのだ。彼ならば浮気をしないかもしれない。
 どこへ行っても立場上縁談を持ち込まれてしまうだろうし、それならばゲームの記憶を活かせる相手に賭けてみようと思ったのだった。



 弟のフィルマンはテオドール殿下と親しい。今の殿下の容態をよく知っているのではと思い、帰宅してから話をしてみることにした。

「テオは、卒業パーティーにも出席出来ていた。調子の良い日もあるんだ。姉上、テオは必ず姉上を幸せにしてくださるはずだ。俺も支える」
「ありがとう、フィル」

 シスコンの弟は、予想外にテオドールとの婚約に賛成しているようだった。

「随分テオドール殿下の肩を持つのね」
「まぁね。テオのことはずっと側で見てきたんだ。あいつはアベル殿下とは全然違う。大丈夫だよ」

 自信満々に友人を信頼している弟が、とても尊くて可愛くて、セリーヌは久々に大きくなった弟の頭を撫でてしまい叱られてしまったのだった。