男は受験ノイローゼにかかっている人のように、歯をぎりぎりと噛み合わせる。

「そこの男さ……お前、何者だよ? 俺の結界回路はちゃんと作動してるはずだぜ? なんでこの病棟に来れるんだよ。っていうか、なんで俺を知ってんだ?」

結界?

心の中だけで首を傾げた私の肩を、彼がポンと叩いた。

一歩、私より進み出る。受け答えは任せて、と言っているようだった。

「君の結界回路はたしかに作動していたよ。誰もこの病棟には来ないだろうし、もともとこの結界範疇にいた人間は眠ってしまっているだろうね。まだまだ三流だけど、悪くない。

ただそれは人間に限った話だし、†を取り締まる教会に、そもそも結界が通用すると思うかい?」

「……お前までまた、なに言ってんだ……?」

男の表情が疑問で暗くなり、彼が、きょとんとする。

「? いや、だから、†だよ。†に比較してね、結界なんていうものは所詮、†の足元にも及ばない陳腐な」

「だからお前、なに言ってんだ? ざけてんのか?」

ああ、と気付く。

それは、さっきの私と同じやり取りだった。