「……今度は、なにを省略して、なにを加算したんでしょうね」

「さあ。少なくとも、もう心は凪いでないだろう?」

心音が、聞こえる。どくん、どくんと。

「――そうですね」

この時、私は本当に理解した。

私が殺したかったのはもしかすると、あの男でも私自身でもなく、凪いだ心だったのかもしれないと。

「ああそうだ」

と、彼が思い出したように、人差し指を立てる。

「いいことを教えてあげるよ。君が掴んだのは剣だろう。剣はね、タロットでは正義を意味するんだ。自信をもっていい。君は罪を背負っても、悪じゃない」

こんな私を元気付けようとしてくれているのだろう。

静かに、ありがとうございます、と私は言った。

嘘は、つかなかった。





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