いつもより一本遅いバスに乗るだけで、世界は変わってしまう。

チャカチャカチャカチャカ。

ラッシュを過ぎたバスは人が少なく、運転手の呟く気力のない声が否応なく耳に入る。

チャカチャカ。

このバスはこれから、地獄のふちにでも向かうのではないか。

朝から陰鬱な想像をしてしまうほど、一本遅いバスはひと気がない。

こんな想像をしたのは、昨日、暗澹とした内容の本を読み耽ったせいか。

向かいで座る、ヘッドフォンをした大学生らしき男。

眠っているのか、背を丸めて俯く老婆。

横には、本の字を目で追う初老のサラリーマン風な男。

そして、ド派手な紫の服を着ている厚化粧の女。

チャカチャカ。

みな、一言も発しない。

あまりに静か。

天井近くでは、広告枠の中で私とそう歳の変わらないだろう純朴な見た目を売りにした少女が、笑っていた。