あまりに静かで、つい息を殺す。シーツの上に乗せている本のカバーは、つるりとした手触りだった。

心は凪いでいたし、雨に打たれる世界は澄んでいたし、体は気だるい。

世界は、あまりに静か。

だから、暇すぎる。

溜め息を漏らしながら、手を顔へ持っていき――

「あ……メガネ」

を、かけていないことに気が付いた。

目が覚めてから度々、こんなことがある。

私はもともとメガネをかけていたのに、どうも最近、忘れがちだ。思い出さなければ、いつまでも枕の横にメガネを放置している。

私のメガネは、伊達じゃない。現実、目が覚めるまでの私の視力は、0・1だった。

そんな私が、メガネを忘れるとはどういうことだろう。

理由は簡単だ。メガネをかけなくても、世界を見ることができる。

本を読むのだって苦労しないし、窓を滴る雨水を観察することも、難しくない。

私の目は、いや、存在は、メガネという視力補助器の要素を、不必要へ定義していた。