どうやら、一週間ほど昏睡状態だったらしい。

目が覚めた私のもとへ、父も母も、血相を変えてやって来てくれた。

サラリーマンの父と、専業主婦の母。一流ではなくても、生活に困らない家柄。そして、仕事や家事を放り出して駆けつけてくれる両親。

私は、恵まれた家に生まれたのだと、こんな時、特に実感できる。

体調を整えるため、という理由で、もう二、三日入院してもらうと、医師から話を聞いた。

一緒に、私がどうなったのかも話してもらった。

なんでも、バスが事故を起こしたらしい。

運転手が昏倒し、車道を逸脱。ガードレールを乗り越えて歩道橋に突っ込み、横転したそうだ。

私と同じバスに乗っていた乗客は、みな死んだらしい。私一人が、ほぼ無傷ながら、気絶した状態で発見された。

奇跡だ。

私は不躾ながら、訊ねてみた。

「死亡者の中に、大学生くらいの人はいましたか?」

答えは、NOだった。発見されたのはサラリーマン風の男と老婆、厚化粧の女と運転手、そして私だけ。

バスの中に、大学生風の男は、いなかったそうだ。

私は、確かに彼を見ていたにもかかわらず。