なぜかアレスが皇城に宿泊することを断固拒否して、帝都の高級ホテルに部屋を取ったのだ。
 最上階のスイートルームは、優雅で洗練されたインテリアでまとめられている。部屋の中央にあるテーブルには帝国の季節の花が飾られて、ほんのりと甘い香りを放っていた。ベッドルームも広々としていて、ゆったりと過ごせそうだ。

 テーブルには花だけでなく、季節のフルーツも色鮮やかに盛りつけられている。私は真っ赤に熟れた苺をつまみながら、アレスに問いかけた。

「ねえ、どうして皇城に泊まらなかったの?」
「お嬢様、あの皇太子の視線に気が付かなかったのですか?」
「え? 始終穏やかだったと思うけど……?」

 思い返してみても、ハイレット殿下が私に秋波を送ってきている様子はなかった。それなのにアレスから放たれる空気が、いばらで全身を巻かれたみたいにチクチクと突き刺さる。

「……そうですか、そう思われるならそれでも結構です。ですが、自分の妻に下心を抱く男と同じ屋根の下にいて、ゆっくり眠れると思いますか?」

 アレスの夜空の瞳がギラリと光る。