クリフ様に手解きを受けて、頭には前方を照らす魔道具をつけて洞窟へと入った。膝をついて洞窟の中を進んでいく。道幅は私が通るのでやっとだ。
 振り返る余裕もなく、そのまま前へ前へと突き進む。

「あ! あったわ!」

 やがて目の前に、赤々と光る六角柱の魔石が姿を見せた。
 周囲を照らす赤い光が風もないのにゆらゆらと揺らめき、幻想的な光景から目が離せなくなりそうだ。美しく儚く輝く魔石を、クリフ様に教えてもらった通りに採取した。

「これで、やっとラクテウスに帰れる……!」

 もう帰りたい。一秒でも早く帰りたい。アレスの転移魔法でヒュンッと飛んで帰りたい。その一心で洞窟から這い出した。
 その勢いでハイレット様たちに別れを告げたのに、クリフ様が私たちを引きとめる。

「ロザリアさん、今日はもう日も暮れそうだしオレの屋敷に泊まっていけよ」
「いえいえ、お気遣いは結構です」
「ロザリア様、私も今日はクリフの屋敷に世話になるつもりです。もう会えなくなるだろうから、最後の晩餐に付き合ってもらえませんか?」

 どうしよう。一刻も早く帰りたいのに、最後の晩餐とまで言われてしまった。ちらりとアレスを見ると視線が合う。

(どうしましょう。早く帰りたいわ)
(ですが、今後の取引のことを考えると、あまり無下にもできないのでは?)
(そうよねえええ……)
(仕方ありません。一晩くらいなら我慢しましょう)

 目だけでアレスと会話して、渋々申し出を受けることにした。
 私はこの時、最後の晩餐の本当の意味を理解していなかった。