幸せを受け止めて～騎士団長は月夜に淑女をさらう～

ラーデマッハー伯爵家のパーティには、
ギュンターは少し遅れて参加した。

時間通りに行くと、
招待客に挨拶して回るクララと鉢合わせするかもしれないからだ。
自分以外の男と並んで立つクララを見たくなかった。

ラーデマッハー伯爵家は王都の中でも自然が残っている地域にあり、
広大な草原が広がった庭園が印象的だ。
招待客たちに紛れて会場に入ると、後ろから声をかけられる。
「妹から一刻も目をそらさない方がいいよ。」
礼服に身を包んだラファエルだ。
今日はいつもの黒縁眼鏡をしていないので、クララと顔がそっくりである。
「それはどういう？」
「妹はお転婆なので、注意して見守っておかないと突然いなくなっちゃうってこと。忠告したからね～」
ラファエルはそう言い残すと、
彼の妻と思しき小柄な女性と姿を消した。

ギュンターはラファエルのことをまだよく知らないが、
余計なことを言う男ではないと思う。
ラファエルがそう言うならということでクララを監視していたのだが、
これが結構きつかった。
望んでいない相手と婚約することになって落ち込んでいるかと思いきや、
マルクスとかいう相手の男と楽しそうに踊っているではないか。
（どういうことだ・・・？）
困惑する気持ちと、マルクスへの嫉妬でギュンターの精神状態は最悪だった。