覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

 


 その頃、衣茉は高校時代の友人、ヒナと電話で話していた。

「別に恋に落ちなくても、書けるんじゃないの?

 秋馬先輩が言うように、他はそこそこ書けてるじゃん。

 空も飛んでないのに飛べてるし、人も殺してないのに、殺せてるし」

「でもそれはさ。
 遊園地の高い乗り物で浮遊感は味わえるし。

 ゴキブリ殺すとき、人殺すみたい逡巡(しゅんじゅん)してるし。

 なんかそういう疑似体験があれば書けるんだけど」

「疑似体験かあ」
と言ったあとで、ヒナが言う。

「あっ、そうだ。
 じゃあ、高い吊り橋に行ってみなよ。

 ほら、吊り橋のドキドキは恋のドキドキと似てるって言うじゃん」