覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

 さすがにまだ結婚の話はしない方がいいかと思いながら、チラと衣茉の席を見たが、幸いなことにいなかった。

「いやいや。
 お前が楽しげに会話しながら歩いてきてたのが物珍しかったんだろ」

 このまま、ここで、わあわあ話されても困るので、吉行を連れて廊下の自動販売機のところまで行く。

 楽しげに会話してたかな。

 あいつと話すと面食らうことばかりなんだが……と思いながら。

 今までは、直属の部下とはいえ、命令する、
「はい」
と返事をする、の繰り返しの会話しかしていなかったから。

「お前、今まで浮いた噂もなかったが。
 女の子といるのも新鮮でいいだろ」
と言う吉行に、

「新鮮は新鮮だな。
 今まで経験したことがないことばかりで」
と言うと、ほうほうほう、と吉行は身を乗り出してくる。