「待てっ、将太(しょうた)っ。
 走るなっ」

 結婚してすぐ、八尋は海外の支社に転勤になったので、衣茉たちはしばらく日本を離れていたが。

 この度、本社に戻ることになったので、新しく家を買い、以前住んでいた街に引っ越すことにした。

 衣茉は八尋が捕まえてくれた八歳になる長男、将太の手をガッチリつかむ。

 三歳の娘、真澄(ますみ)は八尋が抱っこしてくれた。

 将太は新しく住む街に浮かれているようだった。

 散歩しながら、八尋が将太に、かつて住んでいた街を案内する。

「なにもかもが懐かしいな」
と目を細めたあとで八尋は言った。