覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

 思わず、八尋の腕をつかみ、彼が身を引いたのにも気づかず言う。

「すみません、課長。
 今のセリフ、もう一度っ」

「はっ?」

「今のセリフを、もう一度、言ってみてくださいっ。
 『お前は一体、何者なんだ?』って」

「……に、二度は言えない」

「なんでですかっ」

「そう身を乗り出されると、言いにくいからだ」

「いや、言ってみてくださいっ。
 なんか今、サスペンスの謎多きヒロインになれた気がしましたっ」
とか揉めながら、二人は職場への道を歩く。

 急いで恋愛小説を書かねばならない売れない小説家と、結婚したいが、恋のできない課長。

 二人の付き合いは最初から混沌としていた――。