覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

 でも、そうか。
 俺を一番にお気に入りの場所に連れてきてくれたのか、と八尋は喜ぶ。

 嫉妬まみれの日常から少し遠ざかれた気がした。

 今日、社食で、衣茉は何故かみんなに、
「雨男の方はいませんか?」
 などと訊いていて。

 吉行のところの後輩が、
「あ、自分、雨男ですっ」
と言うと、

「今度みんなで出かけませんか?」
と誘っていた。

 いやいや、そんな謎の雨男を誘わずに、俺だけを誘えよと思ったり。

 吉行がいつものように、

「いつも使ってる洗剤に『サボテンの香り』って書いてあったから。

 サボテンの香りだったのか。
 フローラルな感じだけどな~と思ってよく見たら、サボンの香りだったんだよ~」
というしょうもない話をはじめると。

「あ、それ、メモしてもいいですか?」
と訊いて、せっせとメモしているのにも嫉妬した。

 ……そもそも、常日頃から俺は、吉行に嫉妬している、と八尋は思う。