覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

 ……よく考えたら、二人きりだな。

 俺がドキドキしているように、こいつも少しはドキドキしたりしているのだろうか、
と思いながら、本を退けた棚の上を拭いていると、衣茉がさっき見たという夢の話をはじめる。

「それで、これは足を白く染めた黒ヤギさんかもしれない、と思ったんです」

「いや、そこはオオカミだろう?
 ヤギは白かろうが、黒かろうが害はないだろうが」

 いつもテレビを見ながら仕事しているのか、ローテーブルの上に散乱している文房具を片付けていた衣茉が驚く。

「課長、夢の中の、妄想の中の課長と大体、同じこと言ってますよっ」

「……待て。
 その俺は何処の世界にいる俺だ?」

 夢?
 妄想?

 っていうか、大抵の人間はそう言うだろうよ、と思う。

「ともかく、夢の中で追い詰められているとき、課長がこの部屋に来ないよう、さまざまなトリックを考えましてね。

 今なら、いいミステリーが書けると思いました」

 そんなこと考えてる間に、起きて片付けろよ……と思った八尋は、ふと気づいて言う。