覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

 これは八尋課長じゃなくて、足を白く染めた黒ヤギさんかもしれないし。

「いや、そこはオオカミだろっ?
 ヤギだったら、白だろうが、黒だろうが、構わんだろうがっ」

 そう妄想の中で突っ込んでくる八尋に、

 いえ、黒かったら、サバトをはじめるかもしれません、
と衣茉は心の中で反論する。

「おい、衣茉っ。
 開けろっ。

 今、誰か来たら、ストーカーかなにかみたいに見えるだろうがっ」
と八尋は落ち着かなげに周囲を見回しているが、衣茉は、

 いやいや、騙されては駄目だ、とインターフォンの小さな画面を凝視する。

 そういえば、そもそも、課長が我が家を訪ねてくるなんて。
 ちょっと前には考えられなかったことだし。

 きっと、八尋課長だと思って、喜んでドアを開けたら、まだ夜が明けていなくて。

 灯籠を手にした女中を連れた、綺麗な女の人が玄関前に立っているのに違いな――

 い、まで思う前に、

「おかしな妄想にハマってないで、早く開けろっ」
ともれなく心を読まれ、怒鳴られた。