衣茉があそこまでしてくれたのに。
俺はあんまり自分の気持ちをちゃんと示していないよな、と思いながら、朝、八尋はバスに揺られていた。
いや、あそこまでしてくれたって。
よく考えたら、久しぶりに小説が雑誌に載ると、一足先に教えてくれただけなのだが。
……そうだよ。
湯村にだって教えてるかもしれないよな。
あいつ、ほぼ、マネージャーみたいになってるもんな。
いやいや、でも、俺のことを身内も同然と言ってくれたし。
……だが、それは結婚の予定があるからで。
そこに愛があるかはわからないよな。
愛もないのに結婚っていうのもおかしいが。
戦前の親同士が決める結婚みたいなものだと思ってるだけかもしれないし……。
いろいろと悩みながら、八尋はチラ、と隣の衣茉を見下ろした。
衣茉は窓の外を見ながら、何故か、にんまりしたり、青くなったりしている。



