覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

「思い浮かべてみなさいよ。
 今まで知らなかった課長の姿とか。

 今、一番、衣茉ちゃんの心に残っている課長の姿はどれ?」

 衣茉は思い浮かべてみた。

 確かに、自分の中に鮮烈に焼きついている八尋の姿がある。

「月明かりに照らし出された美しい夜の森で見た――

 課長の広い背中ですかね」

「いいじゃない、いいじゃないっ」
と明子が身を乗り出し、吉行が、けっ、という顔をした。

「課長は、こちらを振り返りもせず、一心不乱にスマホゲームをしていました」

「……衣茉ちゃん、実は駄目男が好きなんじゃないの?」

「衣茉ちゃん、ほんとうにその人でいいの……?」

 吉行と明子が衣茉の語る八尋の姿をリアルに思い描いたらしく、そう言ってくる。

 そのとき、メモをとっていた玖村が顔を上げ、
「待って!」
とストップ、というように手を突き出してきた。