覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

 いやいや、いきなりなにを言ってるんだ、俺はっ、と自分の感情は激しく揺れ動いていたのだが。

 それが顔に出ていたのかいなかったのか。

 衣茉は手にしていたジュースをぐびりと一口飲んだあとで、

「あっ、そうでしたね」
と言った。

「すみません。
 忘れてました」
とあっけらかんと笑う。

 ……そうだ。
 そもそも、プロポーズはしていた。

 でも、今俺が言う、この結婚してくれは、前の結婚してくれとは違うんだっ、と思ったが、衣茉にはいまいち伝わっていないようだった。

「そういえば、そうでしたね。
 すみません」

 あはは、と衣茉は笑う。

 くっ、ちょっと前の俺めっ。

 余計なことを言うからっ。

 だが、あの一言がなければ、今、ここに、こうして、こいつといることもなかったわけで、と思ったとき、スマホが鳴った。