覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)

 八尋は草の茂る線路の向こう、古びた小屋にある昔のカレーの看板を指差し言った。

「怒涛の騒ぎで、橋のところのいい感じに錆びた看板を撮りそびれた。
 せめて、あれだけでも撮らせてくれ」

 そう懇願すると、
「課長、ほんとに好きですよね、そういうの」
と衣茉が笑う。

 いや、好きなわけじゃなかったんだが……。

 最初はただの言い訳だったはずなのに。

 ずっと見ているうちに、なんだかほんとうに好きな気がしてきたんだ。

 ……好きなわけじゃないのに、ずっと見ているのは、看板だけじゃなくて、お前も同じなんだが。

 俺は――

 お前のことはどう思っているんだろうな?

 錆びた看板くらいには、好きになっただろうか?
と思いながら、八尋は角度を変えつつ、何枚か写真に収めてみた。

 そろそろ発車時刻かな、と思い、急いで車両に乗り込むとき、衣茉が言った。

「そうだ。
 課長、古い建物とか看板がお好きなら。

 今度、一緒に廃墟とか行きませんか?」