「ドキドキしませんでしたね」
橋を渡り終えたところで衣茉が言った。
「ああ」
抱き止めていたのに、阿呆なことばかり言うから、ドキドキしそびれた。
いや、俺がしなくていいんだが、と八尋が思ったとき、しゅんとした衣茉が言う。
「やっぱり課長がいるといけないのかも……」
うっ。
「課長といると、なんか安心しちゃって。
どんな危険な場所に行っても、ドキドキしないみたいなんです」
課長といる安心感半端ないです。
すみません、と衣茉は謝ったが。
八尋は思っていた。
……どうしたことだろう。
俺の方がドキドキしているっ。



