『な、何でもないよ……!』

 さっき、そう言ったうららに疑いの目を向けずにはいられなかった。

 今俺の隣を歩いているうららは、いつも通り。

 ……にしているらしいが、俺には通じない。

 もう十年以上も一緒に居るんだ。うららの変化の一つや二つ、すぐに分かる。

 俺に隠し事をしている、って事も。

 どうしてうららが隠し事をするのかは見当がつかないが、大方あの一年のせいだろう。

『僕は何もしていませんよ、龍己先輩。少しお話をしていただけで。ね、うらら先輩?』

『何はともあれ、僕はそろそろ帰りますね。うらら先輩、また今度お話ししましょう。』

 あの一年……うららに何しやがったんだ。

 あいつは何もしていないと言ったが、そんなわけないだろう。

 現にうららは今、居心地が悪そうに視線を泳がせているんだ。

 何かあったのは間違いない。

 ……だが、聞いても良い事なんだろうか。

 うららが俺に隠し事をする事はほとんどないと言っても過言じゃない。

 というかうらら自身が嘘を吐くのが苦手だから、自分からそんな難しい所業をするとは思えない。