【中】今さら、付き合いたいなんて。


流し目で私を見た八雲くんは小さくそう言うと、男性の腕を捻って私の手首を解放してくれました。

そして、今度は私の腕を掴み、引っ張るように走り去ります。




「てめぇっ、待てコラ!」


「わっ、ちょ、怒ってんだけど!」


「無視してください」


「できたらしてるって!」




私は八雲くんにつられて走りながら、後ろの怒声に身を震わせました。

今までのナンパ史上、一番やばい事態です。


八雲くんはチラッと私を見ると、角を曲がって物陰に隠れました。




「きゃっ」


「しっ」


「あの野郎、どこ行きやがった!?」




八雲くんに抱き寄せられて思わず声をあげると、さらに密着して壁に寄らされます。

八雲くんの右手は私の口を塞いだまま動きません。


ち、ち、ち、近いです……っ!

それどころじゃないのは分かってますけど! 近いです!