最終手段として、本の背表紙にデコピンし、八雲くんの気を引いてみました。

視線を上げた八雲くんを、不良らしく睨んでみると……。




「何か?」


「チッ……」




開いた本を口元に当てながら、少しくぐもった声でしれっと返されてしまいます。

最後の抵抗に舌打ちをしてみたものの、意に介した様子が全くありません。

なんて手強い相手なのでしょう。




「ふんっ、芹香、外行こ!」


「おう、いいぜ」




負けました、退散です。

これは作戦を練り直さなければ。


八雲くんの机から降りて、芹香と共に教室を出ると、廊下にはまばらに人がいました。

私達が近くを通れば、他の生徒は関わりを避けるように道を空けます。

私を不良だと思ってくれないのは、八雲くんだけなのです。