紫陽花が泣く頃に



少し湿っぽくなった雰囲気を変えるために、俺は戸棚からお菓子を持ってきた。それらをテーブルに広げると、美憂はいつものように妹の話をしてくれた。

「この前妹とね、電車に乗って出掛けたんだ。そしたらふたりとも居眠りしちゃってね」

彼女が家族のことを大切にしていることはわかっている。だけど、美憂は妹の話をしてる時が一番楽しそうだ。

「俺も一度くらいは会ってみたいな」

「うん。今度紹介するね。絶対に気が合うと思うよ」

「そうだといいけど」

「あ、私がこの前持ってきたアップルティーって、まだ残ってる?」

「うん、台所に置いてあるよ」

「じゃあ、ちょっと用意してくるね!」

美憂は慌ただしく部屋を出ていく。窓に打ち付ける雨が激しくなっていた。あのままサイクリングに行かなくて正解だった。

「……ん、なんだ?」

美憂が座っていた場所に、なにかが落ちていた。拾い上げたのは、透明な正方形のケース。仕切りで六つに分けられたそれには、形が違う薬のようなものが入っていた。

これって、なんの薬だ?

疑問に感じたところで、おぼんにティーポットとティーカップを乗せた美憂が戻ってきた。

「お待たせ。今茶葉を淹れたばっかりだから、もう少し待ってね」

再び同じ場所に座ろうとする彼女の手を掴んだ。

「どうしたの?」

「ねえ、美憂。これなに?」

薬を見せた瞬間、美憂の顔色が変わった。

美憂は嘘をつかない。それは俺が一番よく知っていたのに……。

「サ、サプリメントだよ」

彼女は初めて、俺に嘘をついた。

本当に下手くそな嘘だった。

「サプリメントじゃないだろ。なんで隠すの?」

「………」

美憂は俺の目を見ようとしない。その空気に耐えられなくなったように「……ごめんっ」と、美憂が荷物を持って部屋を飛び出した。

「ま、待って……!」

外は篠突く雨だった。傘も差さずにバシャバシャと水しぶきを蹴る音だけが響く。

「ハア……ハア……っ、美憂!!」

俺は彼女の手を掴んだ。雨で冷えてしまったんだろうか。美憂の体温がすごく冷たい。