紫陽花が泣く頃に




「やっぱり千紘くんの部屋は落ち着くな」

俺の部屋に入ると、彼女は決まってベッドを背もたれにして座る。一緒にゲームセンターで取ったクッションを膝の上に置いて寛ぐのがいつものスタイルだ。

「俺はあんまり自分の部屋って好きじゃないけど」

必要最低限のものしかないから、殺風景すぎてつまらない。

「私は千紘くんの匂いがするこの部屋いると、心が和むから好きだよ」

「俺の匂いって、どんな匂い?」

「干したお布団みたいな匂い!」

「え、それっていい匂いなの?」

「もちろん。ぽかぽかして、優しい気持ちになれるんだ」

そんなこと、初めて言われた。匂いならば、美憂のほうがいつもいい香りがする。だから美憂がうちに来ると部屋にフローラルの匂いが残っているから、胸が高鳴って眠れない。

「そういえば、おばあちゃん大丈夫?」

「うーん」

以前から物忘れが多かったばあちゃんは、最近になって状態がひどくなっていた。日中はデイサービスの人が来てくれているけれど、もっと認知症が進んだら、施設の入居を考えたほうがいいと勧められている。

ばあちゃんは住み慣れた家のほうがいいに決まってるけど、俺も付きっきりで面倒は看れないから、来年にはお願いしようと考えている。

「ばあちゃんは親代わりになって俺を育ててくれたのに、施設に入れようとしてるなんて薄情だよな……」

「そんなことないよ!」

美憂は強い力で、手を握ってくれた。

「おばあちゃんだってわかってくれると思うし、ちゃんと専門の人にお願いすることも大切だよ。なにかあってからじゃ遅いんだし、おばあちゃんのことを大事に想ってるからこその決断でしょ」

「……うん」

「離れて暮らしても家族であることは変わらないんだから大丈夫だよ」

「そうだな。ありがとう、美憂」

ばあちゃんがいなくなると、この家はずいぶんと広く感じるだろう。ひとりで暮らしていける自信はないけど、不思議と不安はない。

だって俺には美憂がいる。

美憂が俺の傍にいてくれる限り、どんなことだって乗り越えられる気がしていた。