紫陽花が泣く頃に






「あ、千紘くん!」

急な通り雨によって、動けなくなっていた美憂をタバコ屋まで迎えにいった。声をかける前に彼女は俺に気づいて、背伸びをしながら手を振っている。

「いきなり電話しちゃってごめんね。まさか雨が降るなんて思ってなかったから……」

「通り雨は予測できないから仕方ないよ」

「でも傘を持ってるなんてさすがだね!」

「さっきコンビニで買ったんだよ。だから俺もちょっと濡れた」

「わ、本当だ! 待って、私、ハンカチ持ってるから」

俺も傘を畳んでタバコ屋の屋根の下に入ると、美憂はピンク色のハンカチで洋服についた雨を拭いてくれた。

「それで、これからどうする?」

日曜日は必ずデートをする日になっていて、今日はサイクリングをする予定になっていた。だけど待ち合わせ場所に着く前に雨に降られてしまい、今では本降りになりつつある。

「うーん。残念だけどサイクリングは中止にしようか。利根川の土手も雨で濡れてたら危ないだろうし」

「うん、そうだね。じゃあ、俺ん家に来る? 美憂が観たがってた映画のDVDあるよ」

「本当? 行く、行く!」

暗くなりかけていた表情を明るくさせて、俺の腕にくっついてきた。「へへ」と甘えるように笑ってる彼女に目を細めながら、俺たちは相合傘で歩き出す。

美憂とは今月で十か月記念日を迎えた。学校のマドンナだった彼女と付き合うようになって、言わずもがな周りから批判の声が上がった。

『小暮に高木さんはもったいない』

『なんで小暮みたいな陰キャのやつが高木さんと付き合えるんだ?』

『なにか小暮に弱みを握られてるんじゃ……』

などなど、散々な言われようだった。

『千紘くんのことは私から好きになったんだから、周りがとやかく言わないで!』

美憂が一喝してくれたおかげで周りは静かになったけれど、彼女のことを狙っていた男子はいまだに納得していない。

俺もなんで、美憂と付き合えたんだろうと思う。なにが魅力的に映って、どんなところを好いてくれたのか。それは俺にとって、宇宙を解明することよりも深い謎だった。