紫陽花が泣く頃に



入学式の日。昇降口の前に張られたクラス表に『小暮千紘』という名前を見つけた時の衝撃は今でも覚えている。

高校なんて、どこでもよかった。

自宅から遠くない場所を選んで、平穏に三年間を過ごす予定でいた。

なのに、美憂のことを一番強く想っている彼が、ことあるごとに視界に入る。

それを見るたびにイライラした。私が思っていた以上に、美憂の喪失感に苦しんでいたから。

小暮にだけは、私たちが双子だなんて絶対に言わないって決めてた。

なのに彼が優しすぎるから、言いたくなった。

雨に打たれすぎて、おかしくなったのだ。

「俺は美憂のことがなくても、柴田を助けたよ」

「……そんなの嘘だ」

「嘘じゃない。俺は柴田だから助けたんだ」

そんなの、なんとでも言えるじゃないか。

だけど、嬉しいと思ってる自分がいる。こんなに速くなる胸の鼓動を、私は聞いたことがない。

「か、帰る」

「え、お、おい……!」

私は踵を返して、また雨の中へと戻った。

早く小暮から、離れたかった。
離れなきゃ、いけない気がした。

水たまりの中にバシャンッ!と足が入ったところで、走るのをやめた。乱れた息を整えていると、自分の手にタオルが握られていることに気づいた。

……しまった、返しそびれた。

雨に濡れないようにぎゅっとすると、タオルから彼のような優しい匂いがした。