紫陽花が泣く頃に



「あいつに取られてたの? だから抵抗しなかったのか?」

小暮に問われて、俯いた。

抵抗しなかったのは、鍵のためじゃない。でもその理由を、小暮だけには言いたくない。だって、小暮だって美憂がいいんでしょう。私と美憂が姉妹だって勘づいてるから、私のことを助けたんでしょう?


「とりあえず屋根があるところに移動しよう」

小暮が自分の傘を私に傾けてきた。

雨に晒された私の身体はびしょ濡れで、きっと下着も透けている。冷たくて仕方ないのに、今は優しくされたくない。とくに小暮の温かさには、触れたくない。

「なんで余計なことするの? べつに助けてもらわなくたってなんとかできたから」

そう言いながら、私は小暮の手を払いのけた。

「大体、小暮には関係ないでしょ。私のことなんて無視して素通りすればよかったじゃん。なんで関わってくるの? もういいからさっさと帰って――」

「震えながら、強がってんじゃねーよ」

強い瞳で、声を遮られた。

震えてる? 私が?

自分の手を見ると、たしかに小刻みに揺れていた。べつにこわくなんてなかったのに、なんで……。

「いいから来て」

小暮に手を掴まれた。今度は振り払えないほど強い力で。彼に引っ張られるようにして、足が前に進んでいく。

ひょろいと思っていた小暮の手は、予想に反して大きかった。