紫陽花が泣く頃に



「怖いのはあんたのほうでしょ。いつも威勢だけよくてなんにもできないくせに、偉そうにしないでよ」

イライラする。菅野の汚い顔も、薄笑いを浮かべている男たちも、降り続けている雨にさえ、苛立って仕方ない。

「てめえ、マジで調子にのんなよ」

――バシャンッ。

管野に腕を掴まれた反動で、手に持っていた傘を落としてしまった。

雨が冷たい。どんどん制服が濡れていく。セーラー服がぴたりと張りついて、体のラインが露になると周りの男たちが「おおっ」という声を上げていた。


昔から気が強かったわけじゃない。

昔から男っぽかったわけじゃない。 

昔から隣にか弱い女の子がいたから、私が強くならなくちゃいけなかっただけ。

本当は髪の毛も伸ばしたかった。

本当は可愛い洋服を着たかった。

本当は、泣ける時に泣けるような女の子になりたかった。

でもそれをやるのは美憂だから、私は彼女が選ばないことを、モノを、言葉を使って生きてきた。

そんな私の気持ちなんて、誰も気づかない。

美憂でさえも知らない。

だからあの子はいつも『おそろいのものにしようよ』って、傘やシャンプー、自分の好きな飲み物を悪気なく買ってきた。

それがたまらなく嫌で。だけど美憂が勧めてくれるものは全部私好みだったから、悔しくもあった。

「あれ~、もしかして泣いてんじゃね?」

男たちが高笑いをしながら、顔を覗き込んできた。