紫陽花が泣く頃に




「返してほしかったら、俺の言うこと聞けよ」

管野はニヤニヤした顔で、うちの鍵をちらつかせている。捨てられてなくてホッとしたけれど、こいつのポケットにずっと入っていたんだと思うと、怒りよりも嫌悪感のほうが上回った。

「なんでそんなに私に突っかかってくるの?」

「先に煽ってきたのはお前だろ」

「まさかボールを当てたことをまだ根に持ってるわけ?」

「だったら?」

「小さい男」

吐き捨てるように言うと、管野が詰めよってきた。

「あんまり俺をなめるなよ、柴田」

管野は私にどうしてほしいのか。謝れば満足? ごめんなさいって泣けば彼の自尊心が満たされるんだろうか。

「お前、裏で自分がなんて言われてるか知ってんの? 柴田は生まれた時に付けてくるもんを落としてきたって。本当は女のふりした男だって、みんな言ってるぜ」

「あっそ」

「でもそんな男女(おとこおんな)でも世の中には遊んでやってもいいっていう物好きがいるんだよ」

管野の口元がゆるんだタイミングで、ふたりの男が現れた。金髪にピアスと見るからに素行が悪くて、ガムをクチャクチャと噛んでいた。

「へえ、たしかに見た目は男っぽいけど、けっこう可愛い顔してんじゃん」

男たちは私のことをなめるように見ていた。私はただ鍵を返してほしかっただけなのに、関係ない友達を呼んでるなんて……管野は本当に小さい男だ。

「いきなり黙っちゃったけど、もしかして怖い? お前が素直に非を認めれば許してやってもいいけど?」

管野の一言に、ぷつりとなにかが切れた。