紫陽花が泣く頃に




学校に着くと、クッキーを作る調理実習が控えていた。まるで誰かが仕組んだようなタイミングだ。

家庭科室に移動をすると、五つごとのグループに分けられることになった。みんな持参したエプロンと三角巾を着けていて、俺は先生のものを借りた。

調理実習は大体女子が仕切りたがるので、高確率で男子と喧嘩になる。隣のグループではすでに役割分担をめぐって言い争ってる人もいた。そんな中で、うちのグループはわりと順調にクッキー作りが進んでいる。その理由は……。

「男子は薄力粉をふるいにかけてくれる? やり方はその銀色の網目のところに少しずつ薄力粉を入れて、ふるいを持ってないほうの手で軽く叩くと綺麗に落ちるから」

わかりやすく教えてくれていたのは、柴田だった。柴田はクッキーを作ったことがあるそうで、率先してみんなに指示を出してくれている。

「……なに?」

俺の視線に気づいた柴田が、少しだけムスッとした。

「いや、意外だなと思って」

勝手に男勝りなイメージを持っていたから、お菓子作りなんてしない人だと思ってた。

「クッキーなんて材料が三つあれば作れるよ」

「俺はなにをすればいい?」

「じゃあ、卵を割って。割り方は……」

「いや、それぐらいは知ってるから!」

「あ……ふふ、うん。そうだよね」

柴田が俺の前で初めて笑った。正確には、微笑んだ。不意打ちだったから、少しだけびっくりした。