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学校からの帰り道。俺はいつもよりも速いスピードで歩いていた。
空から降る雨は道路脇の雨水桝に流れている。このまま雨がやまなければ、利根川ダムの貯水量をいつか超えてしまうらしい。そうなったら、学校の存続だけじゃなく、町そのものが雨に呑まれてしまう日がくるかもしれない。
そんなことを考えながら、どうしたって頭では柴田の顔がちらついていた。
俺はなにひとつ、柴田に問いたださなかった。
聞かなかったんじゃない。
聞けなかったのだ。
美憂と同じ傘を持ち、同じシャンプーを使い、同じジュースを好み、妹に贈ったはずのプレゼントを柴田が持っていたというのに、なんにも聞けなかった。
傘、シャンプー、ジュースは、百歩譲って偶然の可能性もある。でもあのシャーペンだけは偶然では片付けられない。
……美憂が言っていた素直じゃない妹が柴田?
ということは、ふたりは姉妹?
いや、同級生だから双子か?
そんなこと、美憂から聞いたこともない。だったら、柴田に聞くしかないんだ。それはわかっている。でも俺は、美憂から聞いていないことを知るのが怖い。どんどん新しい記憶になってしまえば、一年前で止めていた自分の時間が動いてしまう気がした。
まだ、動きたくない。
ずっと、美憂の思い出に浸っていたい。
俺は、最高に臆病者だ。
自宅に着いて、すぐベッドに倒れこんだ。雨どいを伝ってくる雨音とともに聞こえてくる彼女の声。
――『千紘くん、千紘くん』
俺は脳内によみがえってくる記憶を抱きしめながら、静かに目を閉じた。



