紫陽花が泣く頃に



* * *



学校からの帰り道。俺はいつもよりも速いスピードで歩いていた。

空から降る雨は道路脇の雨水桝(うすいます)に流れている。このまま雨がやまなければ、利根川ダムの貯水量をいつか超えてしまうらしい。そうなったら、学校の存続だけじゃなく、町そのものが雨に呑まれてしまう日がくるかもしれない。

そんなことを考えながら、どうしたって頭では柴田の顔がちらついていた。

俺はなにひとつ、柴田に問いたださなかった。

聞かなかったんじゃない。

聞けなかったのだ。

美憂と同じ傘を持ち、同じシャンプーを使い、同じジュースを好み、妹に贈ったはずのプレゼントを柴田が持っていたというのに、なんにも聞けなかった。

傘、シャンプー、ジュースは、百歩譲って偶然の可能性もある。でもあのシャーペンだけは偶然では片付けられない。

……美憂が言っていた素直じゃない妹が柴田?

ということは、ふたりは姉妹?

いや、同級生だから双子か? 

そんなこと、美憂から聞いたこともない。だったら、柴田に聞くしかないんだ。それはわかっている。でも俺は、美憂から聞いていないことを知るのが怖い。どんどん新しい記憶になってしまえば、一年前で止めていた自分の時間が動いてしまう気がした。

まだ、動きたくない。

ずっと、美憂の思い出に浸っていたい。

俺は、最高に臆病者だ。


自宅に着いて、すぐベッドに倒れこんだ。雨どいを伝ってくる雨音とともに聞こえてくる彼女の声。

――『千紘くん、千紘くん』

俺は脳内によみがえってくる記憶を抱きしめながら、静かに目を閉じた。